2012年4月26日木曜日

真性多血症(赤血球増加症)



真性多血症(赤血球増加症)
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解説

 真性多血症は慢性骨髄増殖性疾患のひとつであり、赤血球数の増加が顕著ですが、
白血球数、血小板数の増加を伴う症例が多く見られます。近年、赤血球の前駆細胞の
エリスロポイエチン、インターロイキン-3、インスリン様成長因子に対する感受性が高く、
またエリスロポイエチン非添加でも赤芽球系細胞集塊(コロニー)が形成されるなどの研
究報告がなされています。

疫学

真性多血症は赤血球数と総血液量の絶対的増加を特徴とする多能性造血幹細胞レベ
ルでの異常によって生じる慢性骨髄増殖性疾患の一つです。発症頻度は本邦において
は実際的な疫学調査が行われておらず、実情はわかりません。近年、日本臨床血液学
会が疾患登録事業を始めており、その発症頻度が近いうちに判明するかも知れませ
ん。

診断

 診断基準として1975年にアメリカ真性多血症研究グループ(Ref 1)、2001年にWHOが
提唱した診断基準(Pierre R, et al: Pathology and genetics, tumor of
hematopoietic and lymphoid tissues. World Health Organization Classification of
Tumors. Lyon: IARC Press; 2001. p32-34)があります。循環血液量(核物質を用いる)
を測定しない施設が多いことから現在ではWHO分類が主として使用されておりますが、
2005年にアメリカ血液学会でも後述する遺伝子変異を加えた診断基準(Campbell PJ,
Green AR: Management of polycythemia vera and essentioal thrombocythemia.
Am Soc Hematol Educ Program 2005)が提唱されており、今後、使用される頻度が増
えるものと考えられます。

 2008年WHOによる真性多血症診断基準
骨髄増殖性疾患から骨髄増殖性腫瘍に名称が変更となった。

大基準

1. Hb>18.5g/dl(男性)、>16.5/dl(女性)

もしくは

年齢、性別、住居している緯度から換算したHbかHtが9.9%以上増加している

もしくは

Hb>17g/dl(男性)、>15g/dl(女性)で鉄欠乏性貧血などの改善以外にHbが本人の基準値よりも2g/dl以上持続上昇している

もしくは

赤血球数が予想値の25%を超えて上昇している

2. Jak2V617Fかもしくは同様の変異が存在する

小基準

1. 骨髄の3系統が増生を示す

2. 血清エリスロポイエチンがおおよそ正常値を示す

3. 内因性の赤芽球コロニー形成を認める


 2001年WHOによる真性多血症診断基準

カテゴリーA

A1 循環赤血球量が平均正常予想値の25%以上あるいはヘモグロビン値が男性≧18.5g/ml、女性≧16.5g/μl

A2 以下の二次性赤血球増加を除外する

 家族性赤血球増加症

 エリスロポイエチン高値

低酸素血症(動脈酸素飽和度92%以下)

酸素親和性の高いヘモグロビン異常症

エリスロポイエチン受容体遺伝子異常症

エリスロポイエチン産生腫瘍

A3 脾腫を触知する

A4 骨髄細胞に後天的な染色体異常が存在するが、フィラデルフィア染色体やbcr/abl融合遺伝子が検出されない

A5 内因性の赤芽球コロニー形成

カテゴリーB

B1 血小板数400,000/μl以上

B2 白血球数12,000/μl以上


にきびパワーポイント

B3 赤芽球や巨核球の増生を伴う過形成性骨髄を生検で確認

B4 血清エリスロポイエチン低値

A1+A2に加えてA3〜A5のうち1項目、またはA1+A2に基準Bのうち2項目あれば本症とする。

アメリカ真性多血症研究グループによる真性多血症診断基準

基準A(大基準)

A1 循環赤血球量

男性36ml/kg以上

女性32ml/kg以上

A2 動脈血酸素飽和度92%以上

A3 脾腫

基準B(小基準)

B1 血小板数>40万/μl

B2 白血球数>12000/μl(発熱・感染がないこと)

B3 好中球アルカリフォスファターゼ>100(発熱・感染がないこと)

B4 血清ビタミンB12>900pg/mlまたは不飽和ビタミンB12結合能>2200pg/ml

A1+A2+A3またはA1+A2+基準Bのうち2項目であれば真性多血症と診断する。


アメリカ血液学会で提唱された診断基準

カテゴリーA

A1 循環赤血球量増加(>基準値の25%)

または

ヘマトクリット値 男性≧60%、女性≧56%

A2 二次性赤血球増加症の原因がない(動脈酸素飽和度が正常、かつエリスロポイエチン値が高くない)

A3 (触知可能な)脾腫

A4 V617F変異JAK2遺伝子あるいは他の遺伝子学的異常(BCR-ABL遺伝子を除く)を造血細胞に認める

カテゴリーB

B1 血小板増多(血小板数≧400,000/μl)

B2 好中球増多(好中球数≧10,000/μl、喫煙者では≧12,500/μl)

B3 脾腫(超音波検査、アイソトープ検査)

B4 内因性の赤芽球コロニー形成、あるいは血清エリスロポイエチン濃度低値

以下の項目(1)あるいは(2)がそろった場合、真性多血症と診断する。

(1)A1+A2+(A3orA4)

(2)A1+A2+カテゴリーBのうち2つ


鑑別診断

 赤血球増加症は循環赤血球量が正常範囲であるものの循環血漿量が減少するため
にヘマトクリット値が上昇する相対的赤血球増加症と実際に赤血球数が増加する絶対
的赤血球増加症に分類されます。絶対的赤血球増加症は一次性と二次性に分類され、
一次性は造血細胞に異常がある場合で真性多血症に代表されます。二次性は低酸素
血症、エリスロポイエチン産生腫瘍などによってエリスロポイエチン産生が亢進されるた
め赤血球系細胞の過剰増殖を来したものです。従って一次性と二次性赤血球増加症は
エリスロポイエチン値を測定することによって鑑別することが可能となります。

真性多血症との鑑別になる相対的赤血球増加症としてストレス多血症があります。慢性
に経過する相対的な赤血球増加症(症状は真性多血症と同様に頭重感、めまいなど)で
あり、赤ら顔で肥満型、血圧が高く、社会的立場が高い中年男性(喫煙者、アルコール
多飲者)が多いとされています。


"痛みと頭痛報告書"
赤血球増加症の鑑別
臨床所見・検査所見 真性多血症 2次性赤血球増加症 相対的赤血球増加症
循環赤血球量増加
あり
あり
なし
白血球増加
あり(時になし)
なし
なし
血小板増加
あり(時になし)
なし
なし
脾腫
あり
なし
なし
動脈酸素飽和度
92%以上
基礎疾患による
92%以上
エリスロポイエチン値
低下
上昇
正常
ヒスタミン値
上昇
正常
正常

臨床像

診断時年齢は50〜60歳代であり、男性に多く認められます。

臨床症状:赤ら顔(鼻、頬、深紅色の口唇)、深紅色の手掌、粘膜充血(眼瞼結膜、口腔
粘膜)、頭痛、頭重感、視力障害、眩暈、脱力感、高血圧症といった血液量と粘稠度の
亢進による血流うっ帯に基づく症状が認められます。加えて、入浴後に生じやすい皮膚
掻痒感(増加した好塩基球からヒスタミンが放出される)、血栓症(特に血液粘稠度亢進
により脳血流低下に伴う脳血栓症)、塞栓症、易出血性が見られます。また血小板増加
を伴う症例では四肢末端に焼けたような疼痛を伴う充血した腫脹が下肢に見られること
があります。これを肢端紅痛症と言い、起立、運動などが誘因で生じます。肝脾腫も見ら
れることがあり、特に脾腫は70%の症例に認め られます。

検査所見

(1)末梢血所見:赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値は著しく増加しています
が、小球性低色素性になっていることが多く見られます。これは赤血球が過剰に生産に
よる消費や高ヒスタミン血症に伴う胃潰瘍などの慢性的な消化管出血のため、鉄が消費
されるためと考えられます。この小球性低色素性の場合にはヘモグロビン濃度、ヘマト
クリット値が正常の事があるので注意を要します。網赤血球数は増加、約70%の症例が
白血球数(好中球、好塩基球)増加、約50%に血小板数50-100万/μlの増加が認めら
れます。

(2)生化学検査:これは増加した好塩基球から放出されることによる高ヒスタミン血症が
約70%の症例に認められます。造血細胞の産生によるLDH高値、破壊亢進による高尿
酸血症がみらます。血小板増多が認められる症例では検査上、偽性高カリウム血症が
認められます(試験管内で血小板が溶血)。


"酢酸でかかとの痛みの管理"

(3)骨髄穿刺:特徴的な像は認められず、顆粒球系(好酸球、赤芽球系、巨核球はいず
れも増加しておりますが、形態異常、芽球増加は認められません。

(4)染色体検査:真性多血症では正常核型のことが多いのですが、10-20%の症例では
del(20q)、+8、+9、del(13q)などの染色体異常がみられることがありますが、真性多血症
に特異的な染色体異常はありません。染色体異常を有する症例では骨髄異形成症候
群、急性白血病、骨髄線維症への移行に注意する必要があります。

(5)内因性赤芽球コロニー形成(Ref 2):正常では骨髄の細胞をそのまま培養しても赤
芽球集団(赤芽球コロニー)を形成することはなく、赤芽球増加因子(エリスロポイエチン)
を加えることによって形成されます。しかし真性多血症症例ではエリスロポイエチンンがな
くてもコロニーが形成されます。このコロニーを内因性赤芽球コロニーといい、真性多血
症の診断価値が高いのですが、培養技術を要するため、現在のところ補助項目として扱
われています。
(6)JAK2遺伝子変異(Ref 3, Ref 4, Ref 5 Ref 6):JAK2はエリスロポイエチンなどのサ
イトカインの細胞内シグナル伝達に中心的役割を担うチロシンキナーゼです。近年、こ
のJAK2の遺伝子変異が真性多血症の病態に深く関わっていることが明らかになってき
ました。JAK2はJH1、JH2、SH2、FERMと呼ばれる4つの相同性領域から成り立ってい
ます。正常ではJH2がチロシンキナーゼ活性を有するJH1に抑制をかけ、細胞質内への
エリスロポイエチンなどのサイトカインからのシグナル伝達にブレーキをかけています。
67〜97%の真性多血症ではJH2領域にある617番目のバリンがフェニルアラニンにアミ
ノ酸置換する点突然変異が生じます(JAK2V617F)。この点突然変異のため。JH1に抑
制をかけるJH2本来の働き� �失われ、高いチロシンキナーゼ活性が持続、そのため赤
血球系の前駆細胞はエリスロポイエチンをはじめとする種々のサイトカインに高感受性
を示し、赤血球が異常な恒常的な増加をきたすと報告されています。

治療

 真性多血症の主たる死因が血栓症と白血病への移行であり、この合併症を予防する
ことが治療の主体となります。大規模な臨床研究で判明したことを簡単に述べると、

(1)瀉血のみで治療すると血栓症の発症率が高くなる(Ref 7)がヘマトクリット値を45%以
下に設定することでそのリスクは低くなる(Ref 8)
(2)瀉血療法よりもハイドロキシウレア(商品名ハイドレア)療法の方が血栓症発症率、全
死亡率が低い(ヘマトクリット値45%以下、血小板数40万以下にコントロールされていた
ことによる)(Ref 9, Ref 10)
(3)骨髄線維症への移行の危険因子として血小板数増多が挙げられ、血小板数40万以
下へのコントロールが推奨される(Ref 11)
(4)血栓症予防として低用量アスピリン治療は血栓症発症率を減少させる(Ref 12)
(5)65歳以上、血栓症の既往がある、ことが血栓症発症の危険因子である(Ref 13)
(6)70歳以上が白血病化の危険因子である(Ref 13)
アメリカ血液学会が提唱した治療方針

*瀉血療法(ヘマトクリット値を45%以下に維持


*低用量アスピリンによる抗血小板療法(血小板数150万以上では投与を避ける)
心血管系危険因子の回避(高血圧、喫煙、肥満、高脂血症等)
*化学療法(発癌性を考慮し、下記の場合に使用する)
(適応)
(1)瀉血困難または瀉血でのコントロール不能例
(2)血小板増多進行(100万以上への進行)
(3)進行性脾腫
(薬剤の選択)
(a)40歳以下:インターフェロンα
(b)40歳以上:ハイドロキシウレア

治療方法

(1)瀉血療法

 瀉血は最も簡単に循環赤血球量を減少させることができる治療法です。男性であれば
ヘマトクリット値45%、女性であれば42%を目標に1回200-400mlの瀉血を週に1度、多
血症に伴う症状がある場合には2-3日間隔で行います。高齢者や心血管系の合併症
(狭心症等)がある場合には1回の瀉血量は少なくして回数を増やすようにします。瀉血
により鉄欠乏状態となりますが、鉄剤投与により血栓症のリスクが増加するため、投与
は原則行いません。

(2)抗血栓療法

 多血症で認められる血栓症は血小板活性化作用を有するトロンボキサンA2合成亢進
によるものであり、この合成を抑制し、血栓症の発症率を減少させるため、少量アスピリ
ン療法(100mg/日)が行われます。アスピリンの合併症として消化管出血があります
が、少量アスピリンを用いた臨床研究では出血の有意な増加(プラセボ(偽薬)群と比較
して)は認められず、心筋梗塞、脳梗塞の発症頻度が減少したと報告されています(Ref
12)。またアスピリンは前述した肢端紅痛症に対しても有効であり、疼痛の軽減が図れま
す。血小板数が150万を超えると血小板機能が低下し、逆に出血傾向が出現する場合
があり、この場合にはアスピリン投与は禁忌となります。

 血栓症については高血圧、高脂血症、うっ血性心不全などがリスクとなり、これらの疾
患のコントロールも重要です。

(3)化学療法

 血栓症の高リスク群が対象となります。瀉血が困難な症例、瀉血によるコントロール不
能例、血小板数100万以上(特に150万以上)例、著明な脾腫が認められる症例などが
対象となります。

(a)ハイドレア

 DNA合成を阻害する代謝拮抗薬です。前述したように瀉血療法に比較すると血栓症の
発症頻度を減少させ、かつアルキル化剤よりも白血病原性も少ないため、一般的に用
いられております。本邦においては保険適応とされておりません。

(b)インターフェロンα

催奇形性、白血病原性の報告がなく、40-50歳以下の症例に推奨されています。精神症
状等、種々の副作用、高価な薬剤であり、また本邦においては保険適応が認められて
おりません。

(c)ブスルファン(商品名アルケラン)、ラニムスチン(商品名サイメリン)

後者は本症に対して本邦で唯一保険適応が認められている抗癌剤です。両者ともにア
ルキル化剤であり、二次発癌発症のリスクがあり、使用の際には患者に十分な説明を
要します。

(4)合併症に対する治療

 高尿酸血症に対してはアロプリノール、皮膚掻痒感に対しては抗ヒスタミン薬、H2ブロ
ッカーが使用されます。日常生活では肥満、高血圧、喫煙、アルコール摂取が血栓症の
増悪因子であり、生活指導も重要となります。

予後


 臨床経過は無治療では症状のある患者において平均生存期間は6-18ヶ月、治療する
ことにより平均生存期間中央値は15年以上となります。死因(年間100人に2.94%)とし
ては血栓症、造血器腫瘍、非造血器悪性腫瘍、出血、骨髄線維症が挙げられます(Ref
14)。急性白血病への移行は瀉血のみの治療であっても1.5%と報告されています。
 約15%の真性多血症症例において平均10年を経て消耗期という病期に移行します。
この時期になると骨髄線維症(10-30%)、白血病への移行(5-15%)、進行性脾腫が認
められ、貧血が進行します(Ref 15)。多くの症例で染色体異常が認められるようになり
(トリソミー1q)ます。治療抵抗性であり、対症療法のみで予後不良となります。若年者に
おいては同種造血幹細胞移植の対象となります。

平成20年2月13日初稿

平成20年10月29日追加



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