2012年5月18日金曜日

メルクマニュアル家庭版, 中耳の感染症 276 章 耳、鼻、のどの病気


中耳の感染症(中耳炎)は月齢3カ月から3歳の子供に非常によくみられる病気で、かぜに併発することがよくあります。幼い子供が中耳炎にかかりやすいのには理由があります。耳管は中耳と鼻腔を結ぶ通路で、耳の中の圧力のバランスをとる働きを担っています(耳管の働き:内外の空気圧を等しく保つを参照)。年長児や成人では、耳管の傾斜角度が大きく、内径が太くて構造的にもしっかりしているので、分泌液が鼻腔から流れこんでも容易に排出されます。一方、幼い子供では耳管がより水平に近く、内径が細く構造的にもあまりしっかりしていません。このため耳管は分泌物で詰まったりつぶれたりしやすく、分泌物が中耳の中やすぐ近くに入りこんで、中耳の換気を妨げます。続いて分泌物の中のウイルスや細菌がそこ で増殖し感染症を引き起こします。ウイルスや細菌は乳児の短い耳管を通って容易に中耳に入りこみ、中耳炎を引き起こします。


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耳の構造の違いに加え、月齢6カ月前後の乳児では出生前に胎盤を通じて母親から受け継いだ抗体の効力がなくなるので、感染症にかかりやすくなります。母乳の中にも母親からの抗体が含まれているため、母乳で育てられている乳児はこの抗体によって耳の感染症からある程度守られているようです。この時期の子供は人と接触する機会が増えてくるため、よその子供やものにさわった後でその指を自分の口や鼻に入れるなどして、ウイルスに感染することがあります。こうした経路からの感染がやがて中耳炎を引き起こすこともあります。タバコの煙にさらされていたり、おしゃぶりを使用している子供では、中耳炎にかかるリスクがかなり高くなります。これらはいずれも耳管の働きを妨げ、中耳の通気に影響を与えるから です。保育所などに行くとかぜをうつされる機会が増え、中耳炎にもかかりやすくなります。

中耳の感染症は比較的短期間で治りますが(急性中耳炎)、再発したり長びくこともあります(慢性中耳炎)。

急性中耳炎


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急性中耳炎(中耳と内耳の病気: 急性中耳炎を参照)を最もよく引き起こすのは、かぜと同じウイルスです。口や鼻の中にいる肺炎球菌インフルエンザ菌モラキセラ‐カタラーリスなども中耳炎の原因になります。まずウイルスが感染し、引き続いて細菌感染を起こすこともあります。

急性中耳炎を起こした乳児には、発熱、特に理由がなくても泣いたり過敏になる、よく眠れなくなるなどの症状が現れます。鼻水、せき、嘔吐、下痢などもみられます。まだ言葉でうまくコミュニケーションができない乳児や幼い小児では、耳を自分で引っぱるなどの行動がみられます。年長児は耳の痛みや聞こえの悪さを訴えます。


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鼓膜の奥に滲出液(しんしゅつえき)がたまり、急性中耳炎が治った後も残ることがあります(滲出性中耳炎)。まれに、急性中耳炎が重い合併症を起こすことがあります。鼓膜が破裂して、血液や体液が耳から流れ出すことがあります(耳だれ)。耳の周囲の骨の感染症(乳様突起炎)は痛みを伴います。内耳の感染症(内耳炎)が起こるとめまいや難聴が生じます。脳や脊髄(せきずい)を包む膜の感染症(髄膜炎)や脳に膿がたまる脳膿瘍(のうのうよう)は、けいれんやその他の神経障害を引き起こします。感染を繰り返すうちに鼓膜周辺に皮膚様の組織が生じることがあります(真珠腫)。真珠腫は中耳の骨を損傷し、難聴を引き起こすおそれがあります。

急性中耳炎は、耳鏡で観察すると鼓膜が赤く腫れていることから診断されます。鼓膜を良くみるために、まず耳あかを取り除く処置が必要な場合もあります。耳鏡に付属しているゴム球とチューブを使って耳の中に空気を送り、鼓膜の動きを調べることもあります。鼓膜が動かない場合や動きがごくわずかな場合は、感染を起こしている可能性があります。


解熱と鎮痛にはアセトアミノフェンやイブプロフェンが効果的です。子供の急性中耳炎には、以前は必ず抗生物質が投与されてきましたが、多くの急性中耳炎は抗生物質を使わなくても良くなることが最近では知られています。このため現在では、急性中耳炎が短期間で改善しない場合や、感染の持続や悪化の徴候がみられる場合に限り、抗生物質(アモキシシリンの単独使用またはクラブラン酸との併用、あるいはトリメトプリム‐スルファメトキサゾール)を使用します。

慢性中耳炎


慢性中耳炎は、急性中耳炎を繰り返し再発した末に、あるいは再発性の感染によって鼓膜に損傷が生じたり真珠腫が形成された場合などに起こります。真珠腫が生じると、感染症がさらに起こりやすくなります。慢性中耳炎はタバコの煙にさらされている子供、おしゃぶりを使用している子供、保育園などに通っている子供に多くみられます。慢性中耳炎には、抗生物質を数カ月間毎日投与することを医師が勧める場合があります。抗生物質を投与しても感染症が治らなかったり再発する場合、あるいは慢性中耳炎から鼓膜の損傷や真珠腫が起こった場合には、通気のための換気チューブ(鼓膜チューブ)の留置、鼓膜の修復、手術による真珠腫の切除などを行うことがあります。



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